アンカリング:最初に見た数字が、そのあとの判断を引きずる
先に見た数字が、そのあとの見積もりを引っ張る。この性質はアンカリングと呼ばれ、1974年の古典的な論文で報告されました。実験では、まったく無関係な方法で決まった数字でさえ、その後の推定値を大きく左右しました。研究は米国の研究者による米国の実験で、日本の消費者を調べたものではありません。それでも、値札や定価の並べ方が判断に効く仕組みは同じ形をしています。
無関係な数字でも判断は動く
実験の手順はこうです。参加者の目の前で回転盤を回して0から100までの数字を出し、その数字を出発点として、国連加盟国に占めるアフリカ諸国の割合を推定してもらう。出発点の決まり方は誰が見ても無関係なのに、結果ははっきり分かれました。出発点が10だった群の推定値の中央値は25、出発点が65だった群では45。しかも、正確に答えた人に報酬を出しても、この偏りは消えませんでした。人は出発点から調整して答えを作りますが、その調整が不十分にとどまるというのが、著者らの説明です。
自分の計算の途中でも起きる
同じ論文には、外から数字を与えられなくても起きることを示した実験があります。高校生に、8から1まで順に掛けた式と、1から8まで順に掛けた式を、それぞれ5秒で見積もらせました。答えは同じ40320ですが、降順の式を見た群の中央値は2250、昇順の式を見た群では512。最初の数手を計算した結果が出発点になり、そこから外挿するため、始まりが大きい式のほうが大きく見積もられたわけです。判断の出発点は他人が置くとは限らず、自分の計算の途中経過でも十分に効いてしまいます。
この実験は米国のものであること
書いておきます。これは米国の研究者が米国で行った実験で、日本の消費者を対象にしたものではありません。ですから「日本のセールでは何パーセント判断がずれる」といった数字を、ここから導くことはできません。持ち帰れるのは、判断の出発点がどこにあるかを意識するという一点です。買い物の場面では、出発点はたいてい売り手が置いています。定価と割引後の価格を並べる表示、最初に案内される上位のプラン、比較対象として置かれた高額な選択肢。どれも出発点として機能します。
先に自分の数字を置く
対処は単純です。売り場に着く前に、自分の側の数字を先に決めておく。袋分けはこの作業そのものです。月初に費目ごとの金額を決めてしまえば、店頭で最初に目に入る価格ではなく、自分が先に置いた数字が出発点になります。順序が逆になると、まず値札を見て、そこから「これくらいなら」と調整することになり、実験と同じ構造に自分から入っていくことになります。大きな買い物ほどこの差は開きます。見に行く前に、出せる額を書いてから行く。決めておく額は、他人の平均ではなく自分の袋の残高です。
出典
以下の出典はすべて実際に取り寄せて確認しています。内容は、出典が述べているとおりに書いています。
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Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases
— Science, 1974
回転盤で0から100までの数字を決め、それを出発点として国連加盟国に占めるアフリカ諸国の割合を推定させた実験で、出発点が10だった群の推定値の中央値は25、65だった群では45だった。正確さに報酬をつけてもこの偏りは消えなかった。
よくある質問
値引き表示に引っ張られないコツはありますか?
売り場に行く前に、自分が出せる上限を書いておくことです。研究が示しているのは、出発点が判断を引っ張るということなので、出発点を自分で先に置いてしまえば、値札は比較対象の一つに戻ります。書かずに行くと、その日の最初に見た価格が出発点になります。
予算を決めるとき、去年の金額を見るのは有効ですか?
有効ですが、その数字も出発点として働くことは知っておいてください。去年が高すぎた費目は、そのまま来年の基準になります。だから前年の実績を見るときは、いくら使ったかだけでなく、そのうち意図して使った分がいくらかを分けて見るほうが安全です。
この効果は知っていれば防げますか?
完全には防げないと考えたほうが安全です。実験では、正確さに報酬をつけても偏りは消えませんでした。だから対策は、気をつけることではなく、判断の順番を変えることに置きます。
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